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圧倒と開放、カルデラを五感で楽しむ秋の浅間山

まだ前回の至仏山の余韻が残る10月末、あちこちから初雪の知らせが届き、今年の紅葉シーズンも終わりかな……と思っていたところ、不意に浅間山はどうだろう?と頭に浮かんだ。
今シーズン、紅葉登山ができていない妻の休みを確認――OK
当日の天気を確認――OK
紅葉の状況を確認――OK
パッと思い浮かんだだけなのに条件が完全に整っている。まだ車をスタッドレスタイヤに交換していないため、登山口周辺の路面凍結がやや心配だが、その点は高速を降りた時点で状況を判断することにした。
凍結がありそうならば、インター周辺で少し時間を潰して暖かくなってから登山口へと考えていたが、その心配は杞憂に終わり、予定通り7:30ごろ高峰高原へ到着することができた。
車坂峠―トーミの頭―草すべり―火山館 往復コース

当初は車坂峠からトーミの頭を経由して蛇骨岳(または鋸岳)の往復で予定していたが、トーミの頭まで来たところで風景の変化があった方が面白いだろうと地図を確認し、カルデラの底(湯ノ平)まで下りてみることにした。
トーミの頭の先の分岐からまさに「壁」という様相の草すべりを湯ノ平まで下ると、約300mの標高差は如実に風景の変化があり、浅間山という火山のダイナミックさを全身で感じることができた。
浅間山と言えば、外輪山から前掛山を見た「ガトーショコラ」と呼ばれる風景が代名詞のようになっているが、カルデラの内部が核心部と言っても良いほど「圧倒」と「開放」に溢れていた。
車坂峠―トーミの頭

平日にもかかわらずビジターセンター側の駐車場は満車だったため、高峰高原ホテル側の駐車場に車を駐め、入山準備をして7:45に出発。気温は-1℃、足下は霜柱が立ち朝日にきらめいている。

正面に稜線を越えた朝日が射し込んでくる。
逆光で凍った石が見えにくいので、少し気をつかうものの、スパイクを使うほどでもない。
日差しの暖かさと、針葉樹の爽やかな香りを含んだ冷たい風が心地良い。

登り始めて1時間ほど。開けた場所で振り返ってみると北アルプスが雪化粧していた。ここ浅間や八ヶ岳にはまだ雪が降っていないので、ちょうど3,000mあたりが降雪の境目になっているのだろう。つい先日まで夏日だなんだと言っていたのに、あっという間に冬が迫ってくる。


そんなことを考えながら30分ほど歩いたところで、ビューポイント「槍ヶ鞘」に到着。
ここに着いたらやりたいと考えていたのが上の2枚の写真だ。左はデジタルカメラのGFX100RF、右はフィルムカメラのBRONICA S2で撮影したもの。いずれも中判と呼ばれるフォーマットなのだが、せっかくフィルムシミュレーションが使えるFUJIFILMのGFXなのだから、デジタルとフィルムのPROVIAで撮り比べてみたいと思ったのだ。(フィルムの方は2年前の厳冬期に撮影したもの)
デジタルの方はC-PLフィルターを使っているので彩度は高めだが、コントラストの付き方や色のバランスはフィルムシミュレーションというだけあって、(デジタルとしての)PROVIAを名乗るのも納得できる描写だ。

槍ヶ鞘から先は外輪山の稜線。右手側には常にカルデラとその中央に座す、前掛山の圧倒的な風景が広がっている。秋晴れの空と黄色く輝く唐松のコントラストはまさに絵画的で、季節を問わず人気の山となるのは疑いようがない。

展望が良くスペースの広いトーミの頭で、上の風景を眺めながら昼食をとることにした。心地よいそよ風とダイナミックなカルデラを眺めながらの食事のなんと贅沢なことか……と、考えながら下を覗いてみるとカルデラの底に平たい森が広がっている。
外輪山からカルデラの底である湯ノ平までは、高低差約300mの壁を1時間ほど下ることになるのだが、その道中に見える風景を想像するとワクワクしてたまらない。予定では外輪山の稜線を歩いて往復することになっていたが、地図と天候をチェックして問題は無さそうなので湯ノ平へ下りてみることにした。
草すべり―湯ノ平―火山館


地形図を見ても崖表記のわずかな隙間に通された「草すべり」。実際に下り始めるとほとんど崖だということを実感する。振り返れば今下りてきた斜面は壁のように起ち上がり、つい先ほどまで昼食をとっていたトーミの頭はすでに遙か頭上にあり、先ほどの私のようにこちらを覗き込んでいる人がいる。

この道は急峻なゾーンが長いものの、足下は明瞭で焦らずに足を運べば恐怖感はそこまでない。というより、次々に目の前に迫り来る風景に圧倒されて恐怖を忘れているという方が正しいかもしれない。


草すべりを下りはじめて30分ほどすると周囲の風景は一変する。カルデラ壁の底に近くなり勾配が緩やかになるとともに、あれほど大きく聳えていた前掛山は姿を消し、広々とした空と平らな金色の森が目の前に現れる。つい先ほどまでのクライミングじみた道が、いきなりトレイルハイクのような開放的な雰囲気へと変化する。


道の脇にときおり現れる計測機材や火山弾が、ここはカルデラの底であることを思い出させるが、清涼な松の香りと穏やかな起伏の道行きに心身がリラックスするのを感じる。
垂直移動から水平移動への急激な変化で「整う」といえば分かりやすいだろうか。言うなればこれは「サウナ登山」なのだろう。

そんなことを考えながら歩いているとほどなく、折り返し地点の火山館に到着した。
ここは噴火時の避難シェルターと資料館を兼ねた小諸市営の施設で、水洗トイレとバッジや手ぬぐいなどのちょっとした土産物を買うことができる小屋だ。
休憩を兼ねてスタッフの方と周辺の野鳥の話をする。林の中で見たツグミのような鳥はおそらくトラツグミだろうこと、多くのホシガラスが飛び交っていたこと、ビンズイの囀りが聞こえたなどと、会話を交わして帰路につく。

湯ノ平の分岐まで戻ってくると、眼前には黒斑山が険しく聳えていた。黒斑山はその名を聞くことは多いが、こうして山そのものを意識するということはこれまでなかったような気がする。カルデラの底から見上げる黒斑山は凄まじい迫力だ。

普段、山の急勾配は写真ではなかなか伝わらないと思っているのだが、この草すべりはほぼ崖なだけあって、その急峻さは写真でもわかりやすい。
しかしホールドできる場所やステップとなる岩が適度にあるおかげで、見た目よりは登りやすく(もちろん季節によるだろう)グングン標高が上がっていく。道がすこし広がる場所で、息を整えながら登っていくとちょうど1時間ほどでトーミの頭まで登り切れた。

あとはトーミの頭の先の分岐から中コースを1時間ほどあるけば登山口である車坂峠だ……が、霜がとけてぬかるんだ泥に足を取られ転倒してしまう締まらないゴールとなった。幸い大したケガはなかったが、下りのぬかるみには気をつけようと心に誓った。
タイトルで五感といいつつ味覚の話を忘れていたが、ポリッピーのスパイス味は登山に絶妙なマッチングだ。ピーナッツのほどよい甘みとスパイスの辛味と塩分のおかげで、こまめな補給にしやすい。

