当サイトは広告・アフィリエイトプログラムにより収益を得ています。
地質図を片手に破風山を歩く

約1年後の個展に向け、作品の手がかりを探すために、@alcinist 氏と皆野の破風山を歩くことにした。これまでも何度か登ってきた山だが、今回は地質図を手に、地質とこの土地の文化がどこで接続しているのかを探るのが目的だ。
地質の変わり目は地形に特徴として現れ、その特徴は人の暮らしや道のつき方にも影響を与えてきたはずだ。そうした痕跡を歩きながら拾い集め、写真として繋いでいったとき、何が立ち上がってくるのか。そのアイデアを実際の登山で試してみることにした。
準備として、今回の登山用に自前で編集した地質図を用意する。産総研の公開している地質図NAVIから歩くルート沿いのキーになりそうな岩を抽出し、その上に歩くコースを描いた簡易な地質図を作った。この簡易地質図は地質図NAVIとYAMAPの登山地図を重ねて、必要な情報を抽出・整理するのだが、ありがたいことに双方の地図のディスプレイ上の縮尺がピッタリ合っているおかげで位置合わせは極めてスムーズだった。(どちらも地理院地図をベースにしているおかげ)

今回のコースは郷平橋から尾根筋を歩き、秩父華厳の滝へ抜ける道を選んだ。この道筋は地質境界が多く、地形の変化が読みやすそうなのだ。
上図で色を付けた場所は周辺の泥岩や礫岩より硬い岩の層が出ている場所で、地図からも硬い岩のの場所が尾根として浸食されず残っているのが分かる。これを実際に歩いて岩の違いが道の表情にどう表れるのか?を読み解きながら歩いてみよう。
何気ない風景の中に見える地面のカタチ

スタートしてからしばらくは車道歩きだ。霞んでいるがミューズパークのある丘陵の向こうに武甲山が見える。5億年の歴史を持った山を紐解くのも興味をそそられるが、それは別の機会に譲るとして先へ進もう。


道路脇にさっそく露頭を見つけた。地質図NAVIに依れば白沙層(Siの部分、約1700万年前の地層)の砂岩で、野巻椋神社の裏手、35と記されているポイントだ。砂岩の中にグイッと入り込んだ岩がある。
序盤からいきなり気になる場所が出てきたが、あまりのんびりしているとこの先で時間が足りなくなってしまうのでほどほどで切り上げ、次のポイントである桜ヶ谷を目指す。


地質図のX9と記されているポイント。人家が途切れ、柔らかい砂岩から硬いチャートや玄武岩に変わるあたりだ。
草木が植わっていてパッと見では分かりにくいが、急斜面の前後で地面に転がる石の質が変わり、勾配がなだらかになったことで足下の地質の変化を感じることができる場所になっている。
明瞭にチャートや玄武岩が現れているわけではないが、周囲の地形を眺めると「なるほど……」と納得できる風景だ。

振り返って周囲を眺めてみると、地質図上の境目であることがよく分かる風景(急傾斜なので眺望が良い)が広がっている。
信仰の集まる稜線

桜ヶ谷から山頂までの間は特に目立った露頭はないが、ちらほらとこの山の成り立ちを感じる場面がある。上の写真は玄武岩の欠片が笠になって土を浸食から防いでいるもので、まさにこの山の模型といえる石柱だ。石と石が一繋がりでなく、その間を雨が削っている様子はそのまま地質図や地形図から読み取れるこの山の姿だ。

ほどなく山頂に着いた。破風山は標高626.5mのいわゆる低山だが、皆野アルプスと呼ばれギザギザとした岩稜が続く尾根道は眺めが良く、鎖場もあったりしてなかなか楽しい。その楽しさを生み出したのは破風山から天狗山へ続く稜線の南側に走る断層だ。上の三角点の写真の切れ落ちた地面がその断層というわけだ。

山頂で食事をとって、次のポイントである札立峠へ向かう。ここは秩父三十四ヶ所の札所めぐりの33番(如来寺)と34番(法性寺)を結ぶ巡礼路と尾根道の交差点だ。地質図を確認するとチャートの岩盤が途切れ泥岩が露出したポイントになっている。柔らかい泥岩が雨風で削られ鞍部となり、山を越える峠として道を通しやすかったのだろう。この地形は先ほどの小さな石柱で見た構造そのものだ。


さて、巡礼路で峠……となると茶屋なんかもあったのでは?と同行の alcinist 氏に尋ねてみると「まさに!すぐ下に朽ちた建物がありますよ」とのこと。
確かめてみるとビンゴだ。使われなくなってかなり経っているようだが、小屋の中を見てみると往時の様子が偲ばれる。
小屋周辺にのみシュロが生えているは、繊維を焚き付けやたわしに使ったのだろうか。


峠からまた急登を経て、岩盤上の尾根へ出ると富士講の碑や御嶽山座王大権現の像がある。断層によって南側の見通しが良いことや、麓の水潜寺が札所巡りの結願の場所ということも、この尾根を様々な信仰が集まる場たらしめているのかも知れない。
岩を通して見えるものが増える

まだまだ語りきれないほどに今回の山歩きは得るものが多かったのだが、麓の様子も見ておきたいので天狗山の手前から秩父華厳の滝へ向けて山を下る。
距離としては大したことのない、いわゆるゆるめの低山歩きながら、岩を見ることで「見晴しが良い尾根」としか感じていなかった道が重層的な情報を持った博物館の様な楽しさに溢れた道になるということを満喫できた一日だった。
木々が落葉し、見通しが良い冬の低山。地質図と一緒に歩けば違った風景が見えるのでぜひ試してほしい。
\時間が溶ける! /

