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埼玉県立自然の博物館で3億年の旅路を追いかける

日本の地質学発祥の地、長瀞。荒川沿いに広がる岩畳のすぐそばに、埼玉県立自然の博物館はある。
薄い石が重なり合う片岩が作る特徴的な景観の渓谷を目の前に、館内では秩父地域の成り立ちや自然環境について学ぶことができる。恐竜の化石、古生物の模型、岩石や鉱物の展示から、身近な生き物の標本まで幅広い内容を網羅しており、知的好奇心を心地よく刺激してくれる。展示を見たあと外に出れば、学んだ地形や岩石がすぐそばに実在しているという、この場所ならではのリアリティがある。
久しぶりの山行を計画していたが、直前に腰を痛めて断念。その行き場を失った気持ちをぶつける先として訪れたのが、この自然の博物館だった。コンパクトな博物館ながら、約3億年分の埼玉を追いかけられる展示はその役を十分に果たしてくれた。
ちなみに入館料は大人200円、大学生・高校生100円、中学生以下は無料だ。公立とはいえ、あまりに太っ腹で心配になる。
褶曲標本が出迎えるエントランス



上野にあるような国立の博物館をイメージすると肩透かしをくらうかもしれないが、エントランスは地学熱を上げてくれる標本が出迎えてくれる。いずれも秩父周辺で採集された岩石で、左から相似褶曲、折りたたみ褶曲、並行褶曲が分かりやすくあらわれた標本だ。
手で触れても欠ける気配もまったくない硬い岩石が、ぐにゃぐにゃに押しつぶされている様子にとてつもない力を感じるし、ここがまだエントランスなのだ。この先にある建物の中にはいったいどれほどの驚きが待っているのかと、心が昂ぶる。

褶曲標本を抜け、建物に足を踏み入れるとさらに驚きが待っていた。チケットカウンターの上には……「カルカロドン メガロドン」という約1000万年前の大型のサメが大きな口を開け来館者を出迎えている。この模型は深谷の荒川の河床から出土した歯の化石から推定したもので12mほどあるようだ。

展示室に入る前から圧倒されっぱなしだが、エントランスホール正面にある案内版も見逃せない。
埼玉の地質は標高が高い場所ほど古く、平地に近づくほど新しい。荒川を遡るのは3億年の時を辿る旅とも言えるわけで、これを知れただけでも甲武信岳へ登る楽しみがグッと増えた。
多彩な鉱物標本と身近な動植物



案内に従い次の展示室へ入ると、さまざまな鉱物標本が並んでいる。ちょうどアニメ「瑠璃の宝石」で紹介されていたばかりの黄鉄鉱をはじめ、糸金と呼ばれ線状に結晶化した自然金、いくつかの鉱物が繊維状になった毛鉱など多様な標本がずらりと並び、日本地質学発祥の地と呼ばれることを否が応でも納得させられる。


鉱石ゾーンから振り返ると、恐竜の骨格標本にはじまり古生物の情報が徐々に増え、現代の秩父の生態系展示へと繋がっていく。4.8億年前の海底の堆積によってできあがった石灰岩(武甲山で採掘中の資源)という想像も付かない遠い時代から、ゾウのようにイメージしやすい古生物を挟むことで、現代の自然までが連綿と続く世界であることが伝わりやすい展示は見事だ。

特に常設展示の最後にいる岩茸を採る人物は秀逸だ。数億年という太古のロマンが、暮らしのための仕事というドメスティックな営みに繋がっていることを、この存在が鮮やかに示している。