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これでいい、これがいい――日常が楽しくなるビンテージレンズ「CONTAX Distagon 2.8/28 T*」
宝さがしがバザーの楽しみ
3月24日、小江戸川越春まつりにあわせて開催された蓮馨寺のバザーで、クラウドギャラリーのオーナー兼写真家の大村英明さんが店を出しているということで散歩がてら訪れた。運動不足の解消のための散歩のつもりだったのだが、1年続いた福島での仕事が終わった開放感に包まれた状態でそんなバザーを覗きに行けば結果は明白だ。
テーブルの上にごろっと並べられたカメラやレンズ。大村さん「動くかどうかわからないよ」と言うが、いわゆるジャンク箱に並べられるものよりずっと状態はいい。玉石混交の中から玉を見つけるのがこういう場所の楽しみなわけで、通りかかる人もそれぞれに「おっ!」とか「これは!」みたいな顔をしながらカメラを手に取る。
このNikon Fなんて動くかどうかなんてことはなく、ちゃんと動くのにも関わらずビックリするような値札がついているのだ。Fマウントのレンズを持っていたら飛びついたと思うが……そこからすこし目をずらすと「玉」があった。
それがCONTAX Distagon 2.8/28 T*だ。
Carl Zeissとヤシカ、後には京セラのによって製造された一眼レフカメラシステム用の広角レンズだ。
手に取って絞りやフォーカスリングを動かしてみると何も問題ないし、レンズを覗いてもカビどころかチリや拭きキズもない。値札を見ると18,000円。ちょうど動画用にMFのレンズを探していたこともあって即決だった。他に戦前ZeissのSuperIkonta(645フォーマットの蛇腹カメラ、1934年製)と小さめのペリカン(防水、耐衝撃のハードケース)も合わせて持って帰ることになった。
CONTAX Distagon 2.8/28 T*
SuperIkontaやペリカンについては別の機会に譲るとして、ここではCONTAX(Zeiss)のレンズを紹介しよう。
レンズの名称(Distagon)からレトロフォーカスタイプのレンズ構成、28mmのF2.8ということがわかる。CONTAXの28mmには開放F値が2のDistagonもあり、それに対して1段暗いこちらは廉価版という位置づけ。マニュアルフォーカスで単焦点として特段に明るいわけでもないが、実際に使ってみればそんなことは大した問題ではないと気づかされる。
コントラストが鮮明で、階調やアウトフォーカスへの繋がりが美しく、フォーカスリングも極めてスムーズ。高い逆光性能を持ち、レンズフレアや独特なボケといったオールドレンズに求められがちな特徴はほとんど持ち合わせていない。とにかく触って楽しく、撮って気持ちが良い、これはそんなレンズだ。
ちなみにCONTAXのレンズにはAE型と改良が施されたMM型があり、これは最少絞り値が緑にペイントされていて日本製なのでMMJ型だ。
AE | MM | |
---|---|---|
最少絞り値 | 白 | 緑 |
絞り形状 | 開放付近で手裏剣型 | 一般的な多角形 |
スペック | |
---|---|
レンズ構成 | 7群7枚 |
撮影距離 | 0.25m~∞ |
F値 | 2.8~22 |
絞り羽根枚数 | 6枚 |
フィルター径 | 55mm |
重量 | 273g |
Images
Full FrameのCanon EOS R5とAPS-CのSONY α6700で撮影した写真を以下に掲載する。ハイライトが滲んでいるものはブラックミストフィルターを使用している効果で、素のままの描写(滲みのない写真)はハイライトからシャドーまで均整の取れたコントラストを描く。
Taken with EOS R5 (Full Frame)
28mmは広角レンズのド真ん中。広角ながらあまり歪みも大きくならず構えすぎずに扱える画角だ。GRやスマートフォンの標準レンズとしてもなじみ深い。
古いレンズのため、ミラーレス一眼で使う場合に色収差や歪曲などのレンズ補正の恩恵は受けられないが、実用上さほど気にならない。それなりに大きい周辺減光は味として、広角ゆえに2枚以上のフィルターを重ねる場合はケラれに注意する必要がある。
Taken with α6700 (APS-C)
APS-Cフォーマットのα6700で撮影すると1.5倍でクロップされ、35mm版換算で42mm相当の少し広めの標準画角となる。歩きながら「あ、いいな」と思った瞬間に切り取るのにも良いし、動画の標準レンズとしてもちょうど良い。
周辺減光やフィルターによるケラれは、APS-Cにクロップされるため気にする必要がなく、描写性能の高さもあいまって最近のレンズを使っているのかと錯覚することもある。
オールドではない、ビンテージレンズ
滑らかな操作性、優れた描写力を持つCONTAX Distagon 2.8/28 T*はオールドレンズというより、ギターなどと同じく特定の個性を求めて選ぶビンテージレンズと呼ぶべきだろう。
AFがなく軽量で、鏡胴に刻まれた距離指標のおかげでファインダーを覗く前からフォーカス範囲が分かる。サッと構えてスパッとシャッターを切る。軽快で上等な撮影体験を得るのに、このレンズはぴったりの1本だ。手に取った瞬間から「これでいい、これがいい」そんな気持ちにさせてくれる。