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70年前の蛇腹カメラ「WESTER AUTOROL」を修理する
WESTER AUTOROL

WESTER AUTOROL——西田光学というメーカーが1950年代に製造していた蛇腹カメラだ。WESTER AUTOROLについてオンラインに記録はあまり残っていないが、mars.bellstek.netに詳細が記されていた。それによるとAUTOROLは1956年発売のため、約70年前のカメラだ。
とある仕事で訪問した先で「もう使わないから」といくつかのカメラと一緒に譲られたもので、シャッター内蔵のトリプレットタイプの7.5cm F3.5のレンズを備えた6×6判のレンジファインダーカメラだ。ぱっと見はホコリを被っている程度で比較的きれいに見えるが、フォーカスリングがグリスの固着でまったく動かず、手元にやってきてからしばらくほったらかしになっていた。
ファインダーの二重像もそれなりに見えるし、レンズもさほど汚れていない、フィルム室に目立ったサビもない。フォーカスさえ動くならコンパクトな中判カメラとして登山のおともとして重宝しそうなので、整備用の道具が揃ったのでメンテナンスしてみることにした。
固着したヘリコイドを解きほぐす

前述したとおり、このカメラは見た目はそれほど問題はない。けれどフォーカス調整用のヘリコイドがガッチリ固まってしまいビクともしない。一通り観察してみたものの周辺をバラすためのネジもなさそうなので、スポイトを使って無水エタノールを隙間から注しこんでみることにした。

レンズの外側とフィルム室側の両方から無水エタノールを注ししばらく置いた後、ドライヤーでヘリコイド周辺を温めてフォーカスノブに力を加えてみるとねっとりと重いながらも動いてくれた。ゆっくりと慎重に無限遠に固定されていたフォーカスをヘリコイドが伸びきる最短撮影距離まで動かすことができたので、綿棒に劣化したグリスをバイクの整備に使っていたパーツクリーナーを含ませて拭き取っていく。


グリスを除去した後の感触から幸いにもヘリコイドは外から見える一ヶ所のみのようなので、綿棒の先に新しいグリスをのせヘリコイドにまんべんなく塗り込んでいく。フォーカスレバーを何度か往復させてグリスを馴染ませるとスムーズにフォーカスが動く。往時の動きを取り戻したのであとはレンズの清掃だ。
レンズの分解清掃


レンズの分解も構造が単純なカメラだけにいたってカンタンだ。前玉はゴムのレンズオープナーを押し当てて回せば外れる。後玉はフィルム室側からカニ目レンチで回せば外れる。あとはそれぞれの表裏をレンズクリーナーで拭き上げれば完了だ。
ただし、レンズを外すときは前後ともレンズの鏡筒をしっかりと押さえておかないとスプリングや蛇腹から外れかねないので要注意だ。(私はスプリングアームとレンズ基部を繋ぐピンが外れてしまい、元に戻すのに苦労した)
フィルターアダプターを3Dプリンターで作る

レンズのチリやカビも大したことはなかったおかげで、固着したグリスを除去すること以外、カメラ本体の整備は大きな問題もなくすんなりと終了した。
しかし、実写するにあたってはちょっと困ったこともある。それはシャッタースピードが最大で1/400までしかないということだ。
フィルムしかなかった20世紀と違い、2025年の現在はシャッタースピードが遅いから低感度のフィルムを選ぶというのが難しい。ならばNDフィルターで……と言いたいところだが、今度はレンズにフィルタースレッドが切られていないので一般的なネジ込みフィルターが使えない。こういうときは3Dプリンターの出番だ。
手元に余っていたφ46mmのND-8を取り付けるため、レンズの先端径36mmに合わせた被せ式のアダプターを作ってみた。フィルターが付いているとレンズが折りたためないので、結果的にはネジ込みではなく被せ式しか選べなかったのはむしろ都合が良かった。(ついでにフィルターケースも作っておいた)
蘇ったWESTER AUTOROL

最後に整備をして蘇ったWESTER AUTOROLの試し撮りを見て終わろう。以前、使えそうなZeissのSUPER IKONTAで試写した際、シャッターの中央部から光が漏れていてフィルム1本まるごとダメにしてしまった経験があるので、手頃な価格で手に入るKENTMERE PAN 100を詰めて厳冬の赤城山や梅園で試してみた。
KENTMERE PAN 100フィルムは、通常の使用において、カラー、偏光、NDフィルターなどすべてのタイプのフィルターを使用することができます。
https://ilford.co.jp/photo/wp-content/uploads/2023/02/TDS_KENTMERE_PAN100.pdf
現像から上がってきたフィルムをライトテーブルでざっくり見たところ露出は良さそう。さっそくCanoscan 9000F Mark IIとSilverfast(高性能なスキャニングソフト)でPCに取り込んでみる。コマによってはどこからかの反射と思われる暴れがあるが、なかなかシャープでのびやかな写りが気持ちが良い。ぱらら
(商品リンクは120フィルムが冗談のような価格設定だったので135のものをリンクしている)