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紅葉の谷川連峰を一望する─白毛門
長かった……フィジカルもメンタルも、そして自分自身の経験としても。
2021年の秋にガスに包まれ、目の前に広がっているはずの錦繍の大屏風が幻と終わった初めての白毛門を昇った日。その翌年、@alcinist 氏と登るも体調が優れず途中リタイアした二度目の白毛門。そこからさらに2年を経て、ようやく念願叶い晴天の下、紅葉の白毛門山頂を踏むことができた。
ひたすらに山頂まで続く急登の山
白毛門は湯桧曽川を挟んで谷川岳の隣にある標高1,720mの山だ。落差約1,000mの大屏風「一ノ倉沢」を正面に見る位置にある山と言えば分かりやすいだろうか。健脚の登山者には馬蹄形縦走のゴール(あまりスタートにする人はいない印象)というイメージだろうか。
登山口から山頂まではわずか3kmと、距離だけ見れば軽めのハイクコースのような印象を抱いてしまうが、スタート直後から山頂までほぼ一直線に約1,000mを登り詰めるハードなコースで、三大急登と呼ばれる向かいの西黒尾根よりもキツいという人もいるぐらいだ。
どのぐらいハードなのかざっくりと計算してみる。地理院地図で登山口から山頂までの直線距離を測ると2,442m、山頂と登山口の標高差が1,027mなので、平均勾配は約42%(角度でいえば22°)となる。実際にはほぼ直登とはいえ、ある程度ジグザグして3km程度の歩行距離になるのでそれを当てはめてるとして約34%(約19°)。これでもなかなかの数字だ。一般的には10%を超えれば急坂といわれる勾配なのでどのぐらいのハードさかはイメージしやすくなっただろうか。
ちなみに向かいにある西黒尾根も同じように計算してみると、登山口から勾配が緩くなる肩の小屋手前までで3.1km、標高差1,106mで勾配は約36%だ。三大急登と呼ばれるだけあって相当な勾配だが、こちらは肩の小屋で補給もできるし、帰りはロープウェイを使うこともできるので、往復するなら白毛門の方がキツいのは確かなようだ。
登山口直後から始まる急登
6:20。空が明るくなるともに橋を渡り、いよいよ三度目の白毛門へ足を踏み入れた。コースタイムでは3時間ちょっとというところだが、先述の通り延々と続く急登の道なので、昼前に着けばいいぐらいの気持ちでちょうどいいだろう。どちらかと言えば下りの方が本番なぐらいだ。焦らず脚力を温存していく。
大げさでなく、序盤から目の前に壁のように伸び上がるような道が続いている。できる限り小さなステップを心がけて歩を進めるものの、どうしても腿を90°近く持ち上げなければ登れない箇所も多く、動画はおろか写真を撮る余裕もあまりない。抜けるような秋の空と紅葉のコントラストを撮りたくて、α6700ではなくEOS R5を持ってきたことを若干後悔したが、今さらそんなことを言ってもカメラが軽くなるわけでもない。
一歩一歩がどうしても大きくなりがちで、あっという間に心拍数も上がってくるものの、振り返ればグングン高度も上がっていくのを感じられて手応えがあるのがありがたい。
息を整えるために腰を下ろして小休憩をとると、大きな檜や小さな苗木が朝日に照らされている様子が目に映る。キツいながらもその場所その場所で目を楽しませてくれるものがあり、この山をなんとか登りきりたいと思う動機にもなっている。
しかし、コース上の最初のランドマークである松ノ木沢ノ頭が長い。とにかく長い。所々で迫力のある光景が見えて気力は復活するとはいえ、体力の消耗に比して一向にYAMAP(登山ログアプリ)の現在地表示が松ノ木沢ノ頭に近づかないのだ。
初めてのときはまっしろにガスに覆われた中、よく登ったもんだなんて過去の自分に感心していると急に目の前に山頂への展望が開けた。ようやく最初のランドマーク(といっても行程上2/3ほど)、松ノ木沢ノ頭だ。
松ノ木沢ノ頭の岩の上からはまさに屏風のごとく谷川連峰が聳えている。凄まじい迫力に圧倒されるし、ここから見る谷川のモルゲンロートはさぞ美しいだろうとここまでの苦労を忘れて新たな欲が芽生えてくる。
クライミングと錦繍の稜線を楽しむ後半戦
展望だけが目的なら前回と同じくここで引き返しても十分だ。しかし、せっかく晴天の紅葉期。山頂の向こうに続く錦繍の稜線を見ずして帰るわけにはいかないだろう。すでに腿は攣りかけているが、この先はぬかるみや嫌らしい根っこはない。気持ちを切りかえて山頂を目指そう。
松ノ木沢ノ頭を出てしばらくすると右手側に特徴的な岩が見える。ジジ岩・ババ岩と呼ばれ、この一対の岩を門に見立てて白毛門というらしい。ちなみに尾根筋の登山道ではなく、白毛門沢の谷筋を登ってくるとあの門をくぐるそうだ。
それにしても、森林限界を超えて岩稜歩きになったとたん、さっきまでのしんどさはすっかり息を潜ませた。抜けるような秋の青空と紅葉と、歩を進めるたびにグングン近づいてくる山頂に気持ちがどんどん上向いてくる。
いくつかの鎖場を越え気がつけば山頂に辿り着いていた。YAMAPのログを見るとたしかに松ノ木沢ノ頭からは1時間以上かかっているのに記憶としてはあっという間で、4年越しの光景を目にすることができた。
東には色付いた至仏山に燧岳や武尊山、西には谷川岳と一ノ倉岳、南には赤城山と榛名山、北には隣の笠ヶ岳と朝日岳と名峰がずらりと並ぶ。まさに絶景。白毛門は特等の展望を有する名山だ。
疲れ切った脚を労ってくれるブナの森
念願の眺望を堪能したらいよいよ白毛門の核心部、下山の開始だ。登りで思いっきり腿を引きあげながら登ってきたということは、それだけ段差の大きい下りをやらなければならない。
正直なところ、下山については体力的にしんどく写真を撮る余裕もほとんどないし、捻挫や転倒に気をつけてゆっくりしっかりぐらいしか書くことはないのだが……
15時すぎぐらいに下山するタイミングだと、ちょうど太陽が谷川の山々に隠れる寸前の綺麗な光をヒノキの巨木やブナの森に投げかけてくれる。ヘトヘトに疲れ切った身体へのご褒美と言わんばかりに、一瞬だけの森の輝きを見せてくれるのだ。