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夏の那須周遊─三斗小屋温泉1泊2日の山旅
毎年恒例になっている家族での夏の泊り山行。昨年まで3年連続で尾瀬ヶ原、尾瀬沼、見晴しと尾瀬でのんびり過ごしていてそれはそれでとても気に入っているのだが、違うエリアの夏も見てみたくなるのが人情だ。
雲取山や八ヶ岳などいくつか候補を挙げつつ、これまで散々目の前を通りながら混雑を理由に避けてきた那須はどうだろう?と興味が湧いてきた。主峰の茶臼岳や朝日岳を登るだけなら日帰りで十分な山だが、奥へ下ったところへ歩きでしかアクセスできない三斗小屋温泉という温泉があるのだ。
三斗小屋温泉には「煙草屋旅館」と「大黒屋」という二軒の温泉宿があり、今回はそのうちの「煙草屋旅館」へ泊まることにした。というのもたまたま学生時代の友人とメッセージをやり取りしていたら、以前の経営者が彼の親戚だったというからだ。まぁ……私自身にはほとんど関係のない繋がりではあるものの、せっかくなら話の種になる方に泊まる方が楽しいだろうぐらいの理由だ。
コース
今回のコースは上図の通り、赤が往路で青が復路だ。車は峠の茶屋駐車場(復路の下山地点)に駐めて、ロープウェイを利用して山頂駅からスタートとした。
峠の茶屋駐車場は紅葉期の報道でよく目にする駐車場で、とても混雑しているイメージだが、今回は8月に入ってすぐの平日(金曜日)ということもあって、入山時には午前9時ごろでも1/3も埋まっていなかった。下山時(土曜日)は15時ごろで空いてはいるものの、枠外に駐まっている車も少なからずあったので午前中は100%以上の混雑だったのだろうと思う。週末に訪れるときは駐車場の確保に注意が必要だ。
爽快なトラバースと瑞々しい森歩き
那須ロープウェイで頂上駅まで上がると、主峰「茶臼岳」が目の前に聳え、それをバックに記念撮影をする人や、わいわいと頂上を目指す人に溢れている。茶臼岳の山頂までは整備された道が続いていて、特段の危険箇所もないので登山というより観光地然とした雰囲気がある。
しかし、山頂と牛ヶ首方面との分岐を過ぎると途端に喧噪は消え、静かで爽快なトラバースとなる。鮮やかな緑に真っ青に透き通った空、夏らしい雲、谷筋を駆け上ってくる冷たいガスに、気分は爽快そのものだ。
ほとんど2ヶ月ぶりの登山で、身体がなまっていないか少しばかりの不安があったが、この爽やかな空気に吹き飛んだ。
気持ちの良い道を進み少し高くなったところに登るとそこが牛ヶ首だ。右を仰ぎ見れば茶臼岳の荒々しい山頂、正面には穏やかな稜線の大倉山が座している。平らかでどこまでも歩いて行きたくなる風景に東北の山の雰囲気を感じる。
ここからしばらく、紅葉の名所といわれる姥ヶ平までは緩やかな下りが続く。その名の通りまったいらで開けた場所になっているので、そこで昼食をとることにした。
姥ヶ平ではテーブルやベンチも設置されていたが、日向で暑かったのでナナカマドの木陰で茶臼岳を眺めながら、おにぎりを頬張る。短いとはいえまだ夏は始まったばかりなのに気の早い枝がもう真っ赤に色付いている。
姥ヶ平、ひょうたん池を過ぎると三斗小屋温泉までは緑濃い森歩きになる。ダケカンバやブナ、苔が生い茂り、沢音が響く奥秩父を思い出させる鬱蒼とした道だ。とはいえここも高低差はあまりなくほとんど水平移動なので、音や光を楽しみながら軽快に歩くことができた。
三斗小屋温泉「煙草屋旅館」で山の湯を堪能する
写真や動画を撮りながら、家族3人でのんびり歩いて約4時間。本日の宿「煙草屋旅館」に到着だ。調べていたときに写真などである程度見ていたものの、イメージしていた以上にしっかり旅館らしい建物が山の中に連なっているので少し驚いた。
チェックインして部屋で荷を下ろしたらさっそく温泉だ!煙草屋には泉質別に3つの温泉があり、それぞれ混浴と女性専用時間の割り振りがある。夕食までの時間帯では私は共同浴場、妻と娘は野天風呂を楽しむことができた。いずれも真ん中で仕切られていて、源泉に近い方が熱め、仕切りの逆側はぬるめの湯が張られ夏の山歩きの疲れをすっきりと吹き飛ばしてくれた。(写真のない「あかゆ」は時間の都合で入れなかった)
※温泉は施設の許可を得て撮影しています。
温泉で汗を流した後は、ウッドデッキで他の登山者と夕涼みをしながら、どこの山が楽しいとかあそこからの風景は素晴らしいとか山小屋ならではの談義を楽しんだ。そのうち夕食を知らせる太鼓が響く。
夕食はご飯、なめこ汁、おでんに鮎の甘露煮、蕨のおひたしと牛焼肉だ。山小屋らしく濃いめの味付けだが、汗をかいた身体に沁みわたる旨さだ。ご飯とお茶はおかわり自由なので量も十分に満足できる。なによりご飯がいかにも力が湧いてきそうな絶妙の炊き具合なのがうれしい。
夕食後に空は雲に覆われ、星は望めない空模様になってしまったので早々に寝床についた。(敷き布団は西川のAiRで山小屋とは思えないほど深く快適な睡眠が取れた)
ダイナミックな景観を楽しむ稜線歩き
明けて2日目。
それほど長い行程ではないものの、ゆっくりと歩くつもりだったので煙草屋で弁当を作ってもらい朝日岳に向けて出発した。煙草屋の裏手にある三斗小屋温泉神社を過ぎ、しばらく歩くと木々の間をヒラヒラと舞うアサギマダラを見つけた。アサギマダラはこの時期の山での楽しみのひとつで、涼しげな浅葱色の羽が美しい。スタートから楽しみにしていたものに出会えて気分がいい。
夜に空を覆っていた雲もすっきりと消え、快晴の空のもと歩を進めていくと視線の先にモクモクと立ち上る湯気が見えてくる。この湯気の基は煙草屋の野天風呂の源泉(地図上、三斗小屋温泉の文字の右)で、ここから小屋まで湯を引いているそうだ。おかげで2日目も気持ちよく山を歩ける。感謝。
源泉からこの日ひとつめのピークである隠居倉まではちらほらと高山植物(ミヤマシャジンやマルバダケブキ)を楽しむことができる。山と高原地図によれば、この辺りのエリアでリンドウも見られるらしいが、それには少し時期が早かったようだ。
花を探しながら歩いていると隠居倉へ到着。ここからはぐるりと360°展望できる。あいにく北西側は雲に覆われて大日岳などは見えなかったが、今日これから登る朝日岳(写真右上のピーク)に至る稜線を見渡すことができた。右と左で様相の違うダイナミックな風景が広がる熊見曽根と呼ばれる稜線歩きに心躍る。
その名の通り熊が目撃されることもある熊見曽根を期待半分、怖さ半分で三本鎗岳との分岐までやってきた。ここも隠居倉と同じくとても展望が良く、朝日岳や茶臼岳方面には迫力のある景観が広がっている。ピークの向こうに広がる雲海もあいまってとてもダイナミックだ。
三本槍岳分岐の道標で煙草屋で用意してもらった弁当を食べたら、この山旅最後のピークとなる朝日岳へ向かう。これまでの道と変わり、ゴロゴロとガレた道で油断していると足をすくわれる。特段難しいポイントがないけれど、こういう浮き石が多い場所は怪我をしやすいので意識して気を引き締めつつ歩く。
正直なところ、1日目のスタートからずっと茶臼岳を見続けているので少々飽きた気持ちはあるのだが、朝日岳の山頂からみる茶臼岳はさすがの迫力だ。ゴツゴツとした稜線の先に丸みを帯びたシルエットがあり、その中央でググッと盛り上がった火口部はこれが大地の力だと誇示しているような印象だ。
最後は朝日岳・茶臼岳の鞍部を歩き、峰の茶屋前から下るのみ。2日で歩いた距離はちょうど10km程度と小屋泊山行としてはかなり軽めだったが、コースは変化に富みじっくりと那須岳を味わう意味ではちょうどいいボリュームだった。
動画「那須周遊 – Summer Serenity: A Two-Day Hike with Onsen Bliss at Tabakoya Ryokan」
今回の山行は動画でYouTubeにもアップしている。夏の那須岳や煙草屋旅館の雰囲気は動画の方がより感じてもらえると思うので、8分ほどお付き合いいただければうれしい。
撮影機材について
掲載写真の中で3:2のものはα6700のスチルモード、16:9のものはS-log3をカラーグレーディングしプレミアからフレーム書き出しをしたもの、4:3のものはRicoh GXR Mount A12(ライカMマウントユニット)にCONTAX Distagon 2.8/28 T* MMJで撮影したものだ。
ファインダーのないGXRは晴天の屋外で使うにはピントの確認がしづらく困ることも多いが、CONTAXのレンズとの組み合わせはコンパクトながら重厚感のある画が得られるし、思いのほかクローズアップもでき、古いカメラながら山歩きにはなかなか頼もしい。
動画の撮影はしないのであれば、GR III/IIIxの組み合わせがベストチョイスなのではないか?という気がしている。